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小説「チェリーブロッサム」第54話 最終話

2018年9月19日| 小説「チェリーブロッサム」, 記事一覧

   * Air india 再び

 デリー発成田行き、エアインディア307便に乗り込んだ僕は、座席の窓に身を寄せて、ガラス窓におでこの先をこつんとつけた。ガラスの冷たさがおでこに染みると、「あー。気持ちいっ」と言いながら、ぼーっと外の景色を眺めた。

 僕は無事に、帰りの飛行機に乗ることができた。隣の席には、大阪から来たというおばちゃん二人連れが騒がしく座っていた。バックパッカーの様相の僕を見て興味でもあったのか、一方的に矢継ぎ早に話しかけられていた。

「じぶんみたいな若い子、インドなんて何しに行ってん? もしかして、これがあれやって⁈ きゃきゃきゃきゃきゃ」

 と、おばちゃん二人は小指を立てながら大笑いをし、斜め上から信じられないくらいのいやらしい目で僕を見下ろした。女がらみの話題でも想像ているようだった。まぁ半分は当たってるのだが、そのことについてはもちろん何も言わず、

「はい、インドで自分の真実を知りました」

 僕はしっかり前を向きながら髭を生やした風貌で、神妙な声でくそまじめにそう答えた。キマッた。そう思って隣を見ると、おばちゃん二人はすでに違う話題で盛り上がっていて、さっきよりも大きな声で笑い出した。

 窓の外には果てしない空が広がり、目下には、雄大なヒマラヤ山脈の山並みが幾重にもも広がっていた。きっと今日も登山家は山を登り、そしてまた山を下りているのだろう。

 

 僕の旅は終わった。

   * それから7年後……

 僕は相変わらずサーキットで働き、たまにマシンを傾けている。しかも僕は社員だ。オーナが、僕が結婚をするということで、社員として待遇してくれていた。そして来月僕に子供が生まれる。男の子のようだ! 子供が産まれるということが、思っていたよりも格段に嬉しい自分がいて、僕は息子に会えることをとても楽しみにしている。そして僕は今でも「みそ汁を先に出すなんてまちがってる!」と奥さんに向かって叫んでいる。奥さんは「だまってのめー!」と真正面から僕に怒る。楽しそうに。僕は不幸なわけでもなく、そして「幸せだ!」と叫ぶほどでもないが、僕は僕の人生を、自分と繋がりながら自分の足で歩き、それなりに楽しんでいる。

 僕の机の上には、幸せそうに二人の子供と旦那さんに挟まれて、かっこ良くヤマハレーシングのクルーシャツを着たゆり子の家族写真の年賀状が届いていた。彼はとても優しそうな表情をしていた。消印はイタリアとなっている。ゆり子は念願のヤマハレーシングのチームエンジニアとなり、家族と一緒に世界中のグランプリを転戦している。と記されていた。ゆり子の父である芹澤義男は、3年ほど前にチームを勇退していたが、ゆり子のことが心配なのだろう、雑誌では特別顧問として一緒にグランプリを転戦をしている。ゆり子のことと一緒に、そう記事には書かれていた。

 朱里は全日本選手権で壮絶なタイトル争いを経て、チャンピオンを獲得した。女性では史上初だった。今ではMotoGP世界選手権の最小排気量Moto3クラスに参戦し、3シーズンを戦っていた。今シーズンは初表彰台も獲得し、ランクング7位でシーズンを終えていた。大健闘だった。来シーズンは念願のミドルクラスのMoto2に昇格し、日本人女性として初めてこのクラスに参戦するということで、国内でも話題となっていた。しかもホンダの全面支援での参戦と新聞は報じていた。そしてゆり子の年賀状には綺麗な字でこうも書いてあった。

「グランプリのパドックでは朱里さんと仲良くしています」

 いつか二人がクルーとライダーとしてグランプリを転戦する日々がくるのだろうか。

 僕はあれから二人には会ってはいない。

54話に及ぶ連載もこれで終了です。
長い間本当に大勢の方に読んで頂けてとても嬉しく思っております。
読みづらいところも多々あったかとは思いますが、暖かい感想なども沢山頂けて勇気を出して投稿して良かったなと思っております。

沢山のコンテンツでも紹介していただいて、信じられないくらいの方々に反響をいただきました。
書籍の話もちらほらと頂いておりますが、自分自身まだまだこんなものじゃない。
という思いもありますので、色々なタイミングが合った時には書店に並べられることもあるかとは思います。
その時はまたみなさまも、沢山の時間を過ごされていると思いますので、また違った感想をお持ちになっていただけるとは思います。
いつか書店で目に付いた時は、ぜひお手に取ってレジまで足を運んでいただければそれ以上の喜びはありません。

次回作は「ハピネス」というタイトルで幸せをテーマに書きました。
もしかしたらまたこちらで投稿させていただくかもしれませんが、公募に応募しますので、
その結果後にまた投稿いたします。

本当にみなさまありがとうございました。

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